「ねぇ、良かったの?」
「あァ?」
嗚呼、憧れだった爽やかな王子様はどこへ行ってしまったのでしょうか。
Dear, My Prince 〜epilogue〜
その後と王子様の裏話
「稽古役の話。隣の国の王子からの依頼で、結構いい話だったと思うけど?」
「あぁ。あんなのやってられるかよ、面倒臭ぇ。」
「・・・」
この王子さま。敬語を使っていないとかなりお口が悪いことが判明いたしました。
どうやら知らなかったのは私だけだったらしく、周りのメイドたちはショックを受けているあたしに苦笑いをしていたっけ。
そりゃあそうか。敬語で話してたのはあたしに対してだけだったもんね。
「ねー、なんであたしの護衛になろうと思ったの?」
こうなった今、あたしはこの男にとってこの10年間がどんなものだったのか知りたくてたまらない。
想いが通じ合った日の夜。
夕食を終え、今は部屋にノイズを呼び出し全てを白状してもらうという重大な任務を遂行中であります!
(眠いからテンションがおかしいかもね!)
「あー…まあ…新しい国王と口論になったってのは聞いたろ?」
「うんうん」
「まず…お前と会った翌年だな。俺の親父が国務大臣だったソイツにハメられて首になった。
そのせいで、フィーリアへの援助金が止められた」
「・・・」
「親父が治めてた頃は、まだ街にも活気があった。
けどそいつの国になった途端、見る見るうちに廃れて…
耐えられなくなってもう知るか、って投げやりな気持ちで国を出た」
「取り戻そうとは思わなかった?自分の国に、愛はなかったの?」
それはノイズを責めたわけではない。
国を治める者として、思ったことを隠したりしたくなかった。
あたしはこの国が好きだ。
きっと何があっても、捨てることなどできないだろう。
「最初はな。けど、そいつの政治は武力行使。昔の俺は弱かった。
だから、強くなろうと思って、有名な隣国の剣豪のところに転がり込んだんだ。」
「…よく上手くいったね」
「まぁ、国を出るときに色々あって、服も体もボロボロだったしな。
さすがにそんな美少年を、その人の奥さんがほっとけなかったらしくてな」
「美少年。ふーん。美少年。」
あたしの突っ込みは華麗にスルー。
ノイズはその後過酷な剣の指導を受けたと話している。
そうやっていくうちに、彼の言葉遣いや振る舞いに変化が生じたのだろうとあたしは密かに納得した。
「その人のところで修行するうちに、気が変わって」
「どう変わった?」
「力は人を傷つけるためじゃない、護るために使えって―いつもその人が言ってた。
その口癖を聞いてるうちに、あぁそうか、国を通して護れないなら直接護ればいいんだ、ってさ」
誰を?と聞けば、聞くな、とぶっきらぼうに返事が返ってくる。
それでも緩んでしまう顔を引き締めることはできない。
あたしはもっと、二人の再開は偶然なものと思い込んでいた。
純粋にお互いを忘れられずにいたという事実が、今は本当にうれしい。
「で、話戻るけど…今日この国を出て、自分の国に帰ろうとしたの?」
「まさか。あんな国、帰りたくもねぇよ」
「じゃあ、何で出て行こうとしたの?」
「・・・」
え、なにこの沈黙。
だけどそんな事言ってられない。
今日は問いただすって決めたんだからっ!!
少しして、ノイズが重たそうに口を開いた。
気のせいか、目を合わそうとせずに。
「距離を置かないと、…」
「きこえない」
「…ッ!!…俺とお前はただの護衛とオヒメサマだし、何かあってからじゃ遅ぇしっ!!」
「…は?」
えっと、今は何の話をしてたんだっけ。
「いいか、シア」
気がついたときには、あたしとノイズの距離はぐんと縮まっていて、…
…てか近すぎない?
「ずっと片思いだと思ってた相手の想いが聞けた…
それだけでもいっぱいいっぱいなのに、お前が泣いたりなんかするから――」
「じゃあ、じゃあどうしろって言うの?忘れろって言うの!?」
「10年間ずっと…こんなに想い続けてるのに…」
あぁ、あの夜…?急に黙ったと思ったらコイツ…
「これ以上は我慢の限界かな、と思って」
何考えてたのよッ!!!!!
呆れて何も言い返せなかったあたしが、一発殴ろうかと拳に力を入れた。
瞬間。
あたしの身体はすっぽりと彼の腕に収まっていた。
なぜかさっきまでのことはどうでもよくなって。
生まれたときからこの瞬間を、待ち望んでいたような気さえした。
しばらくしてからもう一度ぎゅっ、と力を込めると、すこしだけ体を話した。
「ってゆーわけで…いいか?」
「は?」
「もう限界だって言ったろ…」
マテ待て待て待て。
話の展開が早すぎるってば!!
返事を待つこともなくお互いの顔が近付いていく。
行き場をなくした先ほどの拳の力を緩め、今度は足に力を集中させ、精一杯の力で一気に蹴り落とした。
「い゛っ…!!!!!」
あたしのかかと(ピンヒール約5センチ)がヒットしたノイズのつま先。
思わず彼は身を離して縮こまった。
そんな姿さえも愛しくなってしまうのは、彼だからなのかな。
突然の痛みで精いっぱいになった彼の顔を両手で包んで、その頬に優しくキスを落とした。
「今日はこれで我慢」
そう言って身を離せば、やっぱり彼の顔は赤くて。
10年間忘れることなく想い続けた相手が彼であって本当に良かったと
心からそう思う。
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◆postscript◆
だぁぁあー!!!
恥ずかしい!!!
家族に見られたら死ねる。
そんなこんなでようやく書き終えました。
この話、実は中学の頃から漫画にしようと思って空想して、
描いてたんですけどね-…
3ページで飽きた!!!
だけどずっと書きたいって思ってた話だったので完結できて本当に幸せです。
当時考えてた話とは全く違うものになっちゃったケド…
なんせ初期のシアは自分の事「ボク」って言ったり…
ノイズは30近いオッサンだったり…
実は最初シアたちは王子様を探す旅じゃなくお姫様を探す旅に出てたりw
そんな事とても言えない(言うとるがな)
この番外篇、実は本編で明確にならない部分がかなりあったので
つじつまあわせみたいなもんです。
でもまぁ幸せそう(?)な二人が描けてよかったかな?
もしかしたら何らかの形でまた短編でも書くかもね。
それはまた気分次第ってことで。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!!!
感想など頂けるとかなり嬉しいです!
ではまた。
文責 詩音 (2007.10.02)
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