その手を汚す位ならば
いっそ私の手で
―――――
乱反射
第一章 @
もう夜が更けた。
新しい学校の下見をする暇もなく、手続きだの下見だの挨拶だのとあちこち連れまわされ、
ようやく一人になったと思えた頃には、町は闇に包まれていた。
今歩いてきた廊下とは違って真っ暗な自室の照明をつけようと闇の中を探る。
パチン、と聞きなれた音とともに部屋は明るく照らされた。
(あぁ、そーだ)
ずっと心の中でひっかかっていたことを思い出し、携帯を取り出しながらベッドに倒れこんだ。
耳を当てれば、そう長くない呼び出し音が響き、元気な声があたしを疲れから引き戻してくれる。
「もしもしっ、有咲!??」
久しぶりだというのにいつもと変わらないその声色に、思わずクスリと笑みがもれた。
「太郎ちゃん、元気…そう…だね、聞くまでもなく。」
「うん、超元気!!久しぶり!!有咲は元気?ちゃんと飯食ってる?つーか急にどーしたの?」
そこまで一息に言ってしまう彼は、やっぱり相変わらずだなぁと、思わずまたクスクスと笑ってしまった。
「??有咲??」
「あはっ…ごめんごめん。あのね太郎ちゃん。あたし転校することになったんだ」
ずっと言おうと思ってたんだけど忙しくてなかなかね、と付け加えると、
やっぱり太郎ちゃんは驚いた様子で、えー!?とかマジー!?とかを繰り返していた。
「でねっ。…ちょっと聞いてる?どこに転校すると思う?」
「・・・・・・まさかっ」
「そ。陵星学園高等部でーす♪」
「マァァァジでぇ!?やーーーったーーー!!!」
うんうん。ホント素直で可愛いなぁ。きっと誰に話しても、ここまで大声張り上げて喜んでくれる人は彼ぐらいのものだろう。
「…やべ、電車の中だって忘れてた…」
…切実にそう思う。
「で、いつからなの?」
「夏休み明け。・・・つまり、明日☆」
そこで会話が一瞬途切れた。
「…明日って、 …明日じゃん」
錯乱しているのか言ってることが意味不明。
とりあえず、信じられないようなので彼が落ち着くのを待とう。
「ちょっーっと忙しくってさ、連絡遅くなってゴメン。もっと早く言っとけばよかったね。
とりあえず、明日からよろしくね。太郎ちゃん♪」
名前を呼んだことではっとしたのか、また元気な返事が返ってきた。
「うん!!もちろん!超たのしみ!!あーーーくそなんで明日朝練あるんだよー
初日ぐらい一緒に行きたいのになぁ。」
「残念。でも朝練は応援しないとね。あたしは大丈夫だから、がんばりな」
「当然!!じゃー明日ね!学校で絶対会おうね!!」
「うん。あたしも楽しみにしてる。太郎ちゃんがいてくれて心強いよ。じゃ、おやすみ。」
不思議なことに、電話をかける前の疲労感は何割か軽くなっていた。
電話を切ったあと、ディスプレイに目を通すと、先ほどは気づかなかったが着信2件とメールが1件。
どちらも同じ人からのものだった。
06/08/31 20:11
アキラ
無題
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おまえなぁ。電話出ろよ。せっかく明日からの新しい生活を一緒に祝ってやろうと思ったのに。
ま、頑張れよ、転校生。
-END-
そういえば今日一日携帯を気にする時間なんてほとんどなかったな、とぼうっと考える。
そしてさすがに何の音沙汰もなかったことを申し訳なく思って、返事だけでも返すことにした。
06/08/31 23:07
To: アキラ
Sub:ごめん
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転校生の前夜は忙しいの!そっちこそ気まぐれに連絡してくるくせに。
気持ちだけありがたく受け取っとく。冷やかしどうもありがとう。
疲れたからもう寝るね。
-END-
♪♪〜♪〜
程なくして返事が届いた。
06/08/31 23:11
アキラ
冷たくない?
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つれねぇなぁ。ま、いつものことだけど。
お疲れ。おやすみmyダーリン
-END-
ベッドに寝転がっていたせいか、疲れたと言葉にしてみれば本当に疲れを自覚してしまって。
メールでも減らないそいつの軽口に苦笑いしながら、意識は遠のいていった。
第1話。全く大事なところに触れてませんが、まぁ始まりってことで。
登場人物もナゾなままですが…あとからまだ何度も出てきますので。
次はいよいよ転校です。
文責 詞音(2006.11.4)
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