ほらね?

目に見えるものしか信じないと

そう言う貴方


だけどわかってほしい。

目に見えるものだけが

すべてじゃないのよ?





乱反射
  第一章 A






生憎の曇り空。

きっと普通のヒロインならそう言う事だろう。
だけどあたしの転校初日には、こんな気候が相応しい。
だって今更、晴天の下、からっとした笑顔で「橘 有咲です!よろしくね!」なんて。

吐き気がする。






前日に父と歩いた学校への道を、あたしは記憶を辿りながら一人で歩いた。
一日前の記憶とは鮮明なもので、思ったよりも早く着いてしまったのはちょっとした計算ミス。
8時30分からのHRまではかなり時間があった。

部活動の朝練に勤しむ声があたりに響く中、あたしは校舎内へと足を進める。



(・・・あれ?)

しばらく歩いたところで、職員室への道を見失ってしまった。
昨日は父の後ろを振り回されるように歩き回っただけなので、無理もないだろう。

幸いまだ時間には余裕があったため、しばらく自分の足で見て回ることにした。



不意にたどり着いた先は、体育館。
校舎と校舎の間にあるその大きな建物の中では、昨日電話越しに話した幼馴染が
今ごろ朝練をしているか――もう終わった頃だろう。

ぼんやりそんなことを考え、今彼に会ってしまうと、立ち話でHRに間に合わなくなってしまうだろう。
瞬時にそう推測して、裏側から反対の校舎に回りこむことにした。



そこで、話し声――いや、何か甲高い声で叫んでいるのが聴こえた。



「――…―ってよ!!」
「…ぃてんの!?」
「―ぅ…―や…されてんのが嬉しいだけでしょ!?」
「そんなっ…!!」

弱々しく反応する声が聞こえたと思うと――…見えた。

いや、見てしまった。



女の子の集団、7〜8人と、その瞬間殴られるジャージを来た女の子。

あたしは隠れる暇もなく、ただそこに立ち尽くした。



「忠告はしたんだから、当然よ。…馬鹿だからわかんないかぁ」
「何度も言わせないで…あたしっ辞める気なんかないもん!!」
「・・・やっぱり馬鹿だわ。コイツ」
「…!!っ」

今度はしゃがみ込んだその子に蹴りが入る。
それを合図のように周りの子も加勢を始めた。




サク。


一歩踏みしめて近づく。

サク、サク、サク・・・。

芝生の上の足音は、その場に相応しくない程柔らかい音を奏でた。



そのうち、全員があたしのほうに目を向け、動きを止める。
あたしも彼女のほうを見る。



サク、サク、サク、サク…

目をそらし、素通り―――

「おい」



…とは行かなかった。



「おまえもバカ?素通りできると思ってんの?」
「・・・駄目?」
わざとおちゃらけて言った。

「つーかさ、フツー見たら逃げるか助けるかしね?」
「『あなたたち何してるのッ!?大丈夫ぅ〜??』…って泣ける〜!!」
「だっはっはっは!!マジ笑いすぎて泣けるってぇ!!」

その場にいた全員が笑い出す。
一人だけ、そのジャージちゃん(命名)はこちらに心細げな視線をおくったまま。

あたしはそれを一瞥して、気付かないフリをして―微笑んだ。

「『もうこんなこと辞めようよ!!ガキじゃないんだからさぁ!!』」
「・・・あ?」



あたしの台詞に、ピタリと笑いがやむ。



「…ってあんたたちの中の誰かが言ったらさ、それこそドラマだと思わない?」
「あぁ?何言ってんのコイツ」

あたしは微笑むことをやめない。

「ま、ガキじゃないんだから理解できるでしょ。じゃ、無関係のあたしはこれで。」
「ちょっ・・・!」

あ然としたいじめっ子たちをよそにその場を去ろうとすると、ジャージちゃんの止めようとする声が聞こえる。
その声に答えることもなく、背を向けて歩を進めた。

「待てよ!!」
「…まだ何か?あたし忙しいんだけど」
「言ったよね?素通りできると思ってんの?…って」
「はい。思います。」

振り返ると一人、長い髪(見たところきっと相当傷んでる)をした女がにやつくのを合図にしたように、全員が笑い始めた。

「生意気な口きいてくれるじゃん。まぁ、今のうちだけだろうけどね?…やれ」

一人が近づいてきたと思うと、襟首を掴まれ――芝生の上に投げ出された。












「…ぅえッ…ゲホッゲホッ」

数分の出来事が、何時間にも感じられた。

「もう、やめてぇ…」

白いカッターシャツには痛々しく血が付いている。



「ホント、さっきのまでの強気が嘘みたいね?」
「うぅ…ッ」

踏みつけられると、それだけではない苦痛のうめき声をあげる。
骨…何本か逝っちゃったかな?



「ぅっ…あんた…誰なの?」



「あたし?…橘 有咲、転校生。よろしく。」







あたりには、苦しみもがく少女たちが横たわっている。










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はわわわ。。バイオレンス。。。
ごめんなさい・・・

文責 詞音 (2006.12.8)

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